大曲の花火2011:芸術究め世界が見つめた「壮大な線香花火」 Oomagari Hanabi Festival (Akita): Hearts and minds coalesce in one of a kind performance 秋葉丈志 Takeshi Akiba

技術と芸術究める これほどまでに技術と芸術、舞台そして時代の空気がマッチしたパフォーマンスは、 世界中で一生音楽や絵画を見て歩いたとしても、滅多に巡り合えないのではないかと思った。 「大曲の花火」は、日本人や日本文化の持てるものをすべて凝縮し表現した、 群を抜く芸術の域に達している。 私が連想するのはフィギュアスケートの大舞台である。 その人が生まれてからこれまでに培ってきたもの、日々人に見えないところで 積み重ねた研鑽を、繰り返しの許されないたった数分で表現しきらなければならない。 技術を究めていることは前提で、その技術をもっていかに人の心を打つのか、 自分の心情を知り、観客の心情を知り、その両方を調和させる最高のバランスで 見せなければならない。技術が芸術に転じるかどうかは、この情の理解があるかに かかっていると思う。「自分の50年を、3分で表現して人を泣かせる」というのは 狙ってできることではない。信念をもってやってきたことと世界や人への自分の気持ちが その瞬間に出るか出ないか、一流の芸術家でもそれは時の運にもかかるものだと思う。 時と心を捉えた一瞬の焔 今年2011年の大曲の花火(8月27日)の「大会提供花火〜奥州曙光・悠久なる黄金の祈り」は その芸術性において、花火の歴史に残るといっていいのではないか。 そしてこれは、今この瞬間のこの舞台でしかできないものでもあった。世界でここだけである。 「壮大な線香花火」だった。「世界に訴えかけるお経」だった。 こんな組み合わせが他に考えられるだろうか。 ある写真家の方が、映像も音楽も非常に的確に捉えた動画を残してくださった。 ぜひこちらを見てほしい。 http://www.youtube.com/watch?v=PCbgjIE77Ro その中でも2分15秒から30秒の「15秒」を私は<歴史に残すべき瞬間>だと思う。 こんな光景が今まであっただろうか。 日本中に名を知らしめた花火大会の最大のクライマックスである「大会提供花火」。 なのにその最も感動した場面はカラフルに華やかに壮麗に打ち上がる大連発ではない。 一番の見どころだったのは、夜空いっぱいに浮かび上がった、静寂な一瞬の「線香花火」である。 しかも音響は仏教僧による「お経」。 直接的には、奥州平泉・中尊寺周辺が世界遺産に指定されたこともあり、 悠久の歴史、仏教的な世界観を呼び覚ますような表現をしたかったということだろう。 そして、花火を打つ側の技術と感覚はこれをするだけの条件を満たしていた。 しかし、同時にこれは、東日本大震災を乗り越えるための弔い花火になった。 少なくとも観衆の中には、そう感じた人も多かっただろう。御線香と御経に涙した人もいただろう。 今年は単に豪華壮麗な花火(「すごい」)でも、ポップでキュートな花火(「かわいい」)でもいけなかった。 「大会提供花火」というグランドパフォーマンスでありながら、悲しみの癒えない人々、 不安や辛さに怯える人々の心も捉え、心を満たすような表現が、求められた。 それを見事なまでに果たしきったのがこの花火である。 今回の花火がいつ企画されたのかはわからない。震災前かもしれない。 しかし、先に述べたように、自分の技術と心情が、相手の心情とマッチしたときに 最高の芸術が生まれるもので、双方の心情はあらかじめ定められるものではない。 技術は鍛練の成果だが、芸術に転じるかどうかは自分の人生と観客の人生、そして時が どう巡り合うかにかかってくる。 だからこそ、今回のパフォーマンスは狙おうとしてできるものではない、再現しようとして 再現できるものではない、一回限りの芸術的な舞台だったのだと思う。 花火職人に感服する この花火を見せてくれたすべての人たちに感謝したい。 そして、技術と心を一瞬の花火に表現するため、一粒の火薬、一ミリの配置、 一秒のタイミングにこだわりつづける花火職人たちの世界を心から応援したい。 (2011. 8.28記す) <追加情報> ・大会提供花火の音源のうち「お経+ダンスビート」という斬新な部分は Uttara-KuruというユニットのファーストアルバムPrayer収録のWintry Wind.
大曲の花火について Information (以下は秋葉によるまとめです。公式情報は主催者HPなどで確認してください)
<概要> 秋田県大仙市大曲の雄物川河川敷で、毎年8月下旬に開かれる。 正式名称は「全国花火競技大会」。 全国の花火業者による競技大会であり、各業者の粋を集めた花火を一度に見られる。 午後5時ごろ開始の「昼花火の部」と午後7時ごろ開始の「夜花火の部」がある。 後者の競技形式は指定の玉の組み合わせによる標準競技と、自由な着想を音楽に乗せて届ける「創造花火」の2本立てである。 特に「創造花火」は他に類例を見ない優れたパフォーマンスが続く。 競技とは別に、全業者が連帯してその年のテーマに沿った大演技を見せるのが「大会提供花火」である。 これはプログラムにも載っていないが、大会参加者は一番楽しみにしている。 今年は、8時50分過ぎに「たーいかーいてーいきょうー」の号令が響き、 会場から期待の歓声があがった。 (正確にいつ演じられるかはその瞬間までわからない) <観覧のコツ> 2012年は8月25日(土)開催予定(第86回) 花火の見栄えも「創造花火」の音響もよい「桟敷席」は7月上旬、抽選により購入できる。 (詳細は下記主催者HPで) しかし、河川敷やその周辺のどこからでも花火を見ることはできる。 当日は秋田県内の道路・鉄道とも昼から大混雑である。 しかし、それだけの価値はあると、何十万人もの人が詰めかける。 最寄駅はJR奥羽線・大曲駅で、秋田新幹線の利用が便利である。 普通列車も上下ともこの日は深夜まで増発される。 (但し、駅で並ぶことと、時間通りには来ないことを知っておく必要がある。 各駅での乗降車の混雑のためにダイヤは大幅に乱れる。今年は軒並み20−30分の遅れだった。) 駅から10分も歩けば花火の見える位置になるが、河川敷付近までは 30分は見ておきたい。行き帰りの混雑時はさらに余裕が必要である。 ピクニックシートとクッション、天候に備え雨合羽を持っていくことを勧める。 (この大会はかなりの雨でも打ち上げに危険さえなければ決行する。)
大曲の花火2008観覧記(秋葉) 秋葉の「秋田おすすめスポット」 (Places to see in Akita) 秋葉丈志のホームページ (Takeshi Akiba's website) 「大曲の花火」公式HP(主催団体である大曲商工会議所内) 観覧・交通手段など (Official website) 2022.9.23 一部リンク修正