憲法の意味失わせる「改正要件(96条)の緩和」


憲法改正論議が、いつの間にか憲法改正要件(96条)の改正という話にすり替えられています。

これは、簡単に言えば、いまは国会議員の3分の2、つまり圧倒的多数の
合意を要する憲法改正の発議を、国会議員の2分の1、つまりぎりぎり
過半数であってもできるようにしよう、という提案です。

憲法改正自体を簡単にできるようにすることで、
将来国会で意見が割れるようなより大胆な憲法改正を提案するときに、
反対があっても簡単にハードルを乗り越えられるようにしておく、ということです。



立憲主義(憲法の意味)への無理解

憲法は、政府、つまり国会の多数派が万が一にでも暴走することを防ぐための仕組みです。

いまの憲法が制定される前に、政治活動や言論の自由が次第に抑圧され、
軍国主義に歯止めがかからなくなった反省に基づいています。

<多数派も憲法の制約は守られなければいけない>というのが立憲主義で、
これは世界中の民主主義諸国が採用している考え方です。

多数派が守らなければいけないはずの憲法を多数派が簡単に変えられるようにするなら、
憲法の意味がなくなります。

日本・日本人は立憲主義を理解しているのか、と国際社会からも問われるでしょう。



勝ちたいから勝ちやすくする?

憲法を改正したい、だから改正しやすくする、というのは
スポーツに例えれば、試合に勝ちたい、だからゲームのルールを変更する
というくらい手段を選ばないやり方で、「アンフェア」な精神に則っています。

真に必要な改正であれば、与野党を越えた国民合意を得る。
だからこそ両院で3分の2という発議要件があります。
3分の2という要件は、基本的に与党だけでは、また一時の感情だけでは
クリアしにくいからです。

半々に割れていても変えられるような憲法は、国民合意としての説得力を失います。
過半数で変えられる憲法は、過半数の暴走を防ぐという憲法の意味を失わせます。


秋葉丈志
2013. 5. 3


<参考>

アメリカ合衆国憲法の改正要件

連邦議会両院の3分の2以上の賛成に基づく発議を経た上で、
すべての州の4分の3(現在では50州中、38州)以上の同意が必要。

人口が圧倒的に多いカリフォルニアやテキサスが賛成でも、小さな州が連合して反対すれば改正できない。
これはアメリカ合衆国が「州の合意の上に連邦政府を成立させている」(United States)という国家形態に基づく。

改正が頻繁になされている事例として取り上げられるが、
本文は1787年制定当時のまま、226年経た現在も、そのまま用いられている。

全27条の修正条項のうち、最初の10か条は憲法採択に合わせ追加された人権規定。

その後の修正には、法の下の平等(修正14条)、選挙権の男女平等(修正19条)、
選挙権の付与年齢を18歳とするもの(修正26条)などがあり、
憲法修正は主として人々の権利拡大のために行われてきている。


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