甘すぎる法規制が起こした事故 4月29日未明、群馬県内の関越自動車道で、金沢から東京へ向かっていた 夜行バスが道路横の防音壁に衝突して大破し、乗客7名が死亡、 3名が重体、35名が重軽傷の大惨事となった。 運転手は警察の調べに対し、居眠りをしていたと供述したという。 深夜に9時間超の旅程にも関わらず、運転手は1名で交代要員も いなかったという。 しかもこの運転手は、東京から金沢へ徹夜運転、その後仮眠時間を 挟んでその日の夜に金沢から東京へ再び徹夜運転だったという。 一人で徹夜の9時間運転でも、普通の人の感覚なら「無理」 「怖い」というだろう。それを二晩連続して交代要員なしでやるとは、 普通の人間の感覚を大きく超えている。(注1) 今回のような事故はNHKが2007年、奇しくもGWに合わせて放送した力作、 「NHKスペシャル・高速ツアーバス 格安競争の裏で」が見事に予見していた。 政府内でも、総務省が規制の甘さに対し「生理学的影響を踏まえたものに 見直す必要がある」(すなわち人間の感覚としておかしい)と勧告していたが、 所管する国土交通省は対策を見送ってきたという。(毎日新聞5月1日報道) →総務省の勧告はこちら。 「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果報告書」 第3節1項(5)で「交替運転者の配置指針の見直し」を勧告している。 非常に的確な内容だった。 これはなぜ生かされなかったのか?政策決定過程の検証も必要である。(注2) 以下、今後取られるべき対策について私見を列挙する。 *やはり法律・規制が甘すぎる。常識的な感覚でおかしいと言える 運転が「合法」ということにならないよう、規制の線引きを見直すべきだ。 *新聞報道によれば、複数の乗客が、運転手の異変に気付いていたという。 カーナビを頻繁に見たり、休憩中ひどく疲れた様子で 突っ伏していたり、事故の10分前くらいからは車体が 左右に揺れて「居眠りではないか」と感じていた乗客もいた。 筆者も、夜行バスで同じような経験をしたことがあるが、 どうしたらよいのかわからなかった。 居眠りは、本人よりも周囲が気付くことの方が多い。 こうした場合に、「起こす」手段を乗客の側に与えてほしい。 *また、運転手の側でも、どうしても体調が優れない場合に その旨乗客に伝えて、臨時の休憩を取る社会的理解を作る 必要がある。(この場合、SA等に停車し、15分、30分 運転手が寝ても文句を言わない風土) *それでも回復しえない体調不良の場合、交替の運転要員を 運行会社が確保するか、会社間で融通し合う仕組みを 整えるなどして、無理に運転させない体制を取ってほしい。 *刑法の強化。明らかに危険な体制で、多くの乗客を授かっての 運行・運転は、それ自体が犯罪に等しい扱いを受けるべき。 意図していなくてもそうなる可能性をわかっていて危険行為を 行えば、「未必の故意」という概念で、そのつもりがなくても そのつもりがあったのと同等の罪に問われることがある。 (「いつかこういう事故が起こると思っていた」との 夜行バス運転手らの証言が報じられている) 今回のような運行・運転にこの考え方を延長し、処罰できるようにすべきである。 *民事責任の強化。一たび事故を起こせば社会的に大きな損失を 引き起こしかねない事業に関しては、事業者の事故防止の責任を より強めるために過失や悪意の有無を問わない「厳格責任」(strict liability) すなわち結果責任的な概念がある。今回のような運転をした 当人、またそれをさせた旅行会社、運行会社にも、同様の責任を 課すことを検討すべきである。そうでなければ法的な責任逃れが 横行するばかりである。(旅行会社、運行会社、運転手それぞれの 行為が複雑に絡み「誰もそのつもりはなかった」という 無責任体制を防ぐ必要がある) *利用者の側の防御策として、こうしたツアーに関して、 「運転手は一人か二人か」「安全と感じたか」などを ユーザーベースで自由投稿できる情報交換サイトが立ちあがることを望む。 秋葉丈志 (2012.5. 1) 注1 その後の報道で、往路については同じ運行会社の別の社員が運転し、 事故を起こした運転手は補助席に座っていたということが伝えられた。 ただ眠ることはできなかったとのことで、やはり二晩連続の徹夜だったことになる。 また、運転手は同路線の運転に不安を感じ、そのため社員が同行したとの報道もある。 それほどの「素人」に大型バスに客を何十人も載せての運転をさせるのは無謀ではないか。 (個人が私的に友人を乗せて運転する場合ですらもう少し慎重にするだろう。 お金を取って多くの乗客を担うプロのはずが、それ以下の責任感である) 注2 国交省は、勧告を受けて検討会を立ち上げ、高速バス制度の 見直しを求める報告書がこの3月にまとまったところだった。 但し交替要員についての指針の見直しには至らなかったとのこと。 国交省資料「関越自動車道における事故について」(平成24年5月7日) 同資料はこちら (5.8追加) 戻る