センター試験混乱:なぜ警告無視?

1月14,15日に行われたセンター試験の実施に際して、大きな混乱が起きたという。(注1)
試験制度の変更で問題用紙の配布方法などが変わったものの、
実施会場となる各大学で配布ミスが相次いだとのこと。
特に地歴・公民では問題が大きかったらしい。

それによって、本来の解答時間以上に解答できる受験生が出たり、
逆に、本来解答を優先したい科目の問題用紙が配られず、
後々まで解答できない受験生が出たという。
大学進学をかけて勉強してきた受験生にとっては、著しい不公平感を
覚えた例も多かっただろう。(注2)

この問題を巡って印象に残ったのは下記の報道である。

昨年、関西で行われた入試担当者説明会で、複雑な受験方法について、
私大の入試担当者が訴えていた。

「混乱が起きる。科目選択別に受験生の会場や教室を分けられないか」。

センター側は、大学側の周到な準備と試験会場での十分な説明を求め、
「試験時間を繰り下げて開始することもやむを得ない」と答えたという。

(読売オンライン1月17日付「複雑な受験、説明は大学任せ…センター試験混乱」)


現場のこの声はなぜ生かされなかったのか。
センター側の企画立案者は、自分たちで試験会場に赴いてみたり、試験に立ち会ったりしてみて、
その計画を「709会場の9843教室*」、すなわち数万人の監督者を動員し、
55万人もの受験者に施す場合に、スムーズにできるのか、検討したのだろうか。

また、産経新聞の報道によれば、センター試験の実施要項は200ページ以上に
及んだという。しかも重要な変更点が何であるのか、わかりやすい
説明はなかったとのこと。(*とも、MSN産経ニュース1月17日付)

経験豊富な現場から混乱への懸念が出ていたのに、センターは、
とにかくもう決めたことだからそれでやってほしい、と
問題を真剣に検討することもなく、現場に仕事を丸投げしていたのではないだろうか。

仮に実施方法の変更までは必要ないと思ったとしても、混乱の可能性が
指摘された以上、万が一ミスがあった場合の対応を考えておくべきだろう。
今回の一連のミスでは、問題が起きただけでなく、問題への対応も各会場で
ばらばらとなり、試験の公平性への疑問が倍加してしまった。

計画を立て、アナウンスすればあとは思い通りに現場がやってくれるだろう、と
想定しているとすれば、それは多くの人間を動員し、多くの人間の
人生を決定づける事業への取り組みとして、想像力に欠く、と言わざるを得ない。
物事が思い通りに動くとは限らない、という前提で、計画の問題点を何度でも再検討し、
問題が起きた場合の対策を立てておく姿勢が欠かせない。

そのためには、あえて多くの人に粗探しをしてもらう方が、むしろ有益である。
説明会で出た懸念に対して防御的になるのではなく、むしろそれを汲み上げ積極活用し、
万全な対応策を練り、重要なポイントをまとめて当日監督に徹底するくらいの取り組みがあってもよい。


原発事故のときと同じような、硬直した姿勢や想像力の欠如が、
起きるとわかっている問題をあえて起こす結果につながってはいないだろうか。
実施方法の簡素化と現場の状況を踏まえた対策を望む。


(2012.1.18 秋葉丈志)



(注1)影響の範囲は、直近の報道によれば、問題配布の遅れが81会場3462人、
時間の繰り下げが48会場4053人、総計7515人の受験生に及んでいるとのこと。
(MSN産経ニュース1月18日付)

(注2)静岡県立富士高校の会場では、本来60分の試験を、一部の受験生は
60分、配布ミスで延長になった受験生は108分かけて受けることができた
との報道がある。(MSN産経ニュース1月16日付)

また、大学によっては先に解答した第一解答科目のみを採点対象にするため、
配布されるべき問題が配布されず、やむを得ず別の科目を先に解答した
受験生は、不本意な科目での受験を強いられた可能性がある。
(朝日新聞asahi.com受験ニュース1月17日付)

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